海外の葬儀事情

日本国内においても、沖縄から北海道まで葬儀の風習はさまざまです。同じ宗教であっても、地域により葬儀の仕方は必ずしも一様ではありませんし、死者に対する扱い方も異なります。私たちが諸外国の葬儀を考えるとき、相手を理解する立場で接する必要があります。日本の葬儀習慣を強制することは国際摩擦を引き起こす原因にもなりかねません。

 

〇葬儀業を囲む環境変化

東アジアでは儒教の影響が強く、手厚い葬儀が行われますが、その1つ韓国では1969年に冠婚葬祭などの儀礼の簡素化を規定した法律が施行されました。その結果、葬儀社が出現し、葬祭業者の組織化も進みました。中国においては、国が殯葬改革を進め、葬儀の近代化、火葬の推進に精力的に取り組んでいます。欧州では、欧州共同体の動きに合わせるかのようにして、葬祭業者が国境を越えて活動するようになっています。

全世界を見渡せば、まだまだ地域共同体による葬儀が多く、葬祭業者の確立を見ないアフリカ、アジア地域や、公営が多い東ヨーロッパ諸国などもあります。しかし、近代化にともなって葬祭業者の確立が図られると共に、各地で業界団体の組織化が進行しており、公的な資格制度を採用する国もふえつつあります。それまで社会的地位が高くなかった葬祭業者の地位向上に向けての努力が盛んに行われており、IFTA(イフタ、International Federation of Thanatologists Association 国際葬儀連盟)など国際的な葬儀業者の協議団体も組織され、国境を越えた取り組みもいっそう活発になると予想されます。

 

こうした中で、欧米の業者を中心に葬祭業の業務範囲の拡大と質の変化が課題となっています。葬儀の準備とその施行という狭い範囲の業務にとどまるのではなく、埋葬や火葬に必要な書類や死亡した病院での手続き、保険金の請求業務の助言や代行、遺体の長距離・国際間移送、エンバーミングなどの遺体処置、生前予約、遺族のカウンセリング、火葬業務、墓地経営など、死によって引き起こされる一切の業務について遺族の相談にのり、必要な手続きを代行するという、総合的な業務をするよう変化しつつあります。

また、こうした業務範囲の拡大にともなって、近代企業への脱皮がなされ、経営学の知識、コンピュータ利用法といった近代経営に必要な知識や技術はもちろん、葬儀の歴史や倫理、心理学、病理学・細菌学・解剖学などの医学、葬儀に関連する法規など、業務に関連する専門的知識、技術の習得が求められるようになり、そのための教育機関も現れています。また、葬祭業の社会的な役割が強まることによって必然的に強化されるのが社会的な責任です。企業として納税義務があることなどはもちろん、消費者保護や災害時における救援活動などは葬祭業者が自覚的に取り組むべき課題となっています。

 

〇イスラム文化圏の葬儀

近年、中近東から来日する就労者や就学者も増えており、イスラム教徒の葬儀習慣を知らないために、遺体を火葬に付して問題になったこともありました。国や民族により違いはありますが、イスラム教国の諸国においては宗教が生活の中に深く根ざしており、死に対してもイスラム教の教えが強く影響しています。

イスラム教では、死はアラー(神)に定められたものであり、死者はやがて来る裁きの日に復活するまで待機のときを過ごす。周囲の人々はこれを落ち着いて受け止め、過度に嘆き悲しむことなく速やかに死者を見送る必要がある、としています。したがって、当日もしくは翌日には埋葬され、火葬は固く禁止されています。復活の日に「五体満足」である、また、火で体を焼くのは煉獄に落ちた者への罰である、と説明されています。

まず遺体は、ムスリム(イスラム教徒)の仲間によって水で清められ、白布に包まれ、棺または台に載せられ、男性だけによる葬列を組んで墓地へ行きます。都市部では、郊外の墓地まで遠いため、霊柩車も使用されます。途中にモスク(イスラム教の礼拝所)があると立ち寄って拝礼し、葬列に出合った人は起立して見送ります。墓穴には白布のまま埋葬されることが多いようです。墓標を高く建てることは少なく、埋葬跡には石を置く程度です。服喪は基本的には3日間で、この間に弔問を受けます。弔問の主たる目的は死者の身内を慰めることにあります。死者や墓は粗末にはしませんが、過度に賛美したり、大げさに弔うことはしてはいけないとされます。エジプトなどの都市部では葬祭業者の存在も認められますが、信仰を同じくする仲間により葬ることが原則となっています。

 

〇北米の葬儀事情

北米では、葬儀社に就職するにしても経営するにしても、見習いは別として、資格が必要です。資格には連邦政府資格と州政府資格があり、州によりその必要な資格が定められています。

資格はフューネラルディレクターとエンバーマーの2つに分かれており、フューネラルディレクターは、通常はエンバーマーの資格も併せて保有しているケースが多いようです。 エンバーマーはエンバーミング(遺体衛生保全、遺体に対する消毒・防腐・修復・化粧の処置の総称)の技術者、フューネラルディレクターは葬儀全般の担当者で、消費者との対応は全てフューネラルディレクターの業務です。

この2つの資格を得るためには、原則として1年以上の葬儀専門学校(または大学の葬儀学部)での履修の後、1年以上の実習を経て試験を受け、合格しなければなりません。また、資格の更新も必要で、1回合格したら永久に有資格者となれるわけではありません。 エンバーマーになるためには、化学、細菌学、解剖学、病理学を学び、薬品や遺体処置に必要な医学的知識および処置の技術を習得します。フューネラルディレクターになるためには、医学関係の知識などに加えて経営実務、社会学を学ぶと共に、葬儀の歴史などの専門的知識および遺族に対応するために必要なカウンセリングや心理学についても学びます。北米の葬儀はまずエンバーミングから始まります。病院などで亡くなった遺体は日本の斎場にあたるフューネラルホームに運ばれます。遺族の9割以上がエンバーミングを望む米国では、遺族の依頼、同意の下でエンバーミングが行われます。この間、フューネラルディレクターは遺族に棺など必要な葬具を提示し、実際に見せ、葬儀をどう行うかを相談し、費用を見積もります。どんな音楽をしようするか、どのような花を使うかなども細かく相談しますが、このとき、フューネラルディレクターは遺族に対して情報は公開するものの、どのサービス、どの物品を選択すべきかを勧めてはいけない、と法律で定められています。(消費者の選択権確保)

葬儀の実質的な中心は、日本の告別式にあたるビューイング(またはビジテーション)です。エンバーミングが済み、棺(キャスケット)に横たわった遺体と告別に訪れた人々が一人一人一定の時間内でお別れをします。宗教的な儀礼は、フューネラルホーム内のチャペルでの葬儀式、墓地での埋葬式が一般的です。フューネラルディレクターは、埋葬あるいは火葬までの葬儀の運営、手続きの代行を行うほか、葬儀後の遺族を訪問し、その悲嘆のケアも担当します。

米国ではサナトロジー、デス・スタディと言われる死や遺族の非嘆を扱う学問も発達しており、この学問成果を活かすことにも熱心です。また災害時は、フューネラルディレクターやエンバーマーが、警察、消防、医師などと共に、緊急派遣の一員に組み込まれており、死者の遺体処理、搬送を担当するなど、その社会的責任は重いものがあります。葬祭業者は専門家として社会的な地位を高めていると共に、消費者運動が活発で、消費者の強い監視の下にあるということも米国の葬祭業を囲む環境の特徴となっています。

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